こんにちは。インターン生のSakuraです。今回は研究者インタビュー第2弾としてワイヤレスネットワーク研究センター長の豊嶋さんにお話を伺ってきました。つい先日大きな話題となった(日本の)民間人初、国際宇宙ステーションでの滞在ニュース。まだまだ現実的には難しいと思われている宇宙旅行も、、、十数年後にはもう夢ではなくなるかもしれませんね。そんなワクワクするお話をたくさん聞かせていただきました。
豊嶋 守生
ネットワーク研究所
ワイヤレスネットワーク研究センター 研究センター長 1994年郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。 技術試験衛星VI型(ETS-VI)を用いた静止衛星―地上間のレーザ通信実験に従事。宇宙開発事業団(NASDA、現宇宙航空研究開発機構(JAXA))に出向し、光衛星間通信実験衛星(OICETS)の光通信機器の研究開発を実施。 ウィーン工科大学在外研究を経て、OICETSを用いた低軌道衛星―地上間のレーザ通信実験に従事。小型光トランスポンダ(SOTA)を用いた世界初の50kg級小型衛星―地上間のレーザ通信実験及び衛星量子通信実験を成功裏に実施。 技術試験衛星9号機(ETS-9)の衛星搭載通信機器の研究開発に従事。博士(工学)。 |
【豊嶋さん】 現在ようやく使われ始めた5Gですが、その先のBeyond 5Gの時代では、ドローンや空飛ぶクルマをはじめとする移動体に対して、成層圏プラットフォームや衛星などを用いて、シームレスな通信ネットワークを構築していくことが期待されています。そのような3次元的に飛翔する移動体を非地上系ネットワーク(NTN: Non Terrestrial Networks)と呼んでいますが、現在私は、そのNTNをワイヤレス通信で如何につないでいけば皆さんが使いやすくなるのか、、という研究開発を進めています。
私の専門は光衛星通信技術で、レーザ通信で衛星通信を実現するための研究開発に長く携わってきました。気が付くと早いもので研究を始めてからもう28年近く経ちます。最初のころは実際にできるかどうか誰にもわからない技術でしたが、実現に向けて世界初の宇宙実証を何回も行ってきました。最近では、技術の成熟度も向上し、衛星に搭載する光通信システムの開発は、かつては宇宙機関や政府機関でないとなかなか取り組むこともできなかったのですが、衛星を打ち上げての実証も含めて今では民間でできるようになってきています。
Beyond 5Gの時代では、数万機の低軌道衛星のコンステレーションがサービス化され、無数のドローンや空飛ぶクルマがあちこちに飛び交う世界になっているでしょう。電波でのワイヤレス通信では周波数がひっ迫してしまいますので、広い通信帯域を確保するのが難しいところですが、レーザ通信を用いると広い通信帯域を確保できることに加え、レーザビームが非常にシャープなので、干渉に強く、盗聴されにくいためセキュリティも確保できるようになります。
【Sakura】 2021年3月、NICT発行のホワイトペーパー制作ではご尽力されたと伺っておりますが、その過程で一番苦労されたこと、またはエピソード等がありましたら教えてください。
【豊嶋さん】 月面都市のシナリオの話があった時、実は、最近宇宙開発でホットになってきている月面有人探査と将来の火星探査を目指す「アルテミス計画」という話があり、月と地球との間で大容量通信を実現するにはどうしたらよいか考えていたところでした。2030年代には月を周回する有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」も実現されていることでしょうし、2035年頃には本当に月面での有人活動が本格化していると思います。また、月面での過酷な環境を考えると、その技術は、地球上での猛暑や極寒な地域、さらには水中などの厳しい環境で人々が生活するような場面へも応用されると思いますし、もちろん火星や更に遠方の惑星などへも展開されていくと思います。
【Sakura】 昨今、日本をはじめ米国・ロシア・欧州・中国・インドなどの宇宙主要国での動向がニュースでもよく取り上げられるようになりましたが、Beyond 5G未来社会に向けて、今後日本(NICT)が担うべき役割とは何だとお考えになりますか。
【豊嶋さん】 宇宙開発においては、それぞれの国の宇宙機関(例えばNASA、欧州宇宙機関(ESA)、JAXAなど)が主として行ってきており、多くはそれらの専門機関に頼ることになると思いますが、通信技術の面を考えると少し違います。NICTは、JAXAの様な宇宙機関ではないですが、通信の標準化をつかさどる国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)等の正式構成機関です。Beyond 5Gに向けては、様々な異分野が融合して通信基盤が構築されていくと考えられますので、宇宙だけの話ではなく地上で行われている通信技術と親和性を持って技術革新をしていく必要があります。その中で、NICTは地上から宇宙まで広く通信技術を研究開発している組織ですので、NTNを地上系のネットワークに如何にシームレスにつなぎ、それを実現する全体のネットワークアーキテクチャを考え、そのようなコンセプトを世の中に国研として発信していく役割があると思っています。理想的には、その中に民間の通信事業が協創して存在できるようにしていけると良いですね。
【Sakura】 NICTホワイトペーパー、シナリオ2「月面都市」を実現させるためにはどの分野のステークホルダーとの協創が大切だと思われますか。
【豊嶋さん】 月面都市のシナリオでは、宇宙探査や資源開発、輸送サービスや宿泊サービス、さらには地球の1/6の重力を利用するレジャーなど、月面に何らかの価値を見出す様々なユーザの方々が集まり、そこに新しい市場を形成することが重要だと思っています。そこへは当然通信の需要があり、新しい通信インフラを必要とする場面が生まれます。ちょうど、Beyond 5Gに向けた方向性が、様々な異分野が融合して通信基盤が構築されていくように、それらの異分野連携を促進して全体の通信システムを考えていく必要があると思います。それらのユーザになる方々や、サービス提供側の通信事業者等のステークホルダーの方々と一緒に考え、実現に向けて協創していくことが大切だと思います。
【Sakura】 最後に豊嶋さんのような研究者を目指す学生、子供たちに向けて何かアドバイスがあればお願いします。
【豊嶋さん】 私は、自分で何か新しいものを創り出したい、人がやっていない新しいものにチャレンジしたいという思いがあり、研究者を選びました。この宇宙分野の研究開発を始めたきっかけは、最初は考えてはいなかったのですが、衛星に関する研究開発ってなんか面白そうだなと思い、人とのつながりで紹介もあってNICTに入り、この道に進むことになりました。
実際に研究開発の中で、地道に進めなければいけないことも多いですが、人とのつながりでチャンスを頂いたり、また、誰もできると言ってはくれない中で、自分自身が覚悟して進めないといけない場面もあったりと、自分を信じて何度もチャレンジした覚えがあります。そんな研究活動の中で多くの人に助けられ、地上―衛星間の光通信実験、超小型衛星を用いた光通信実験や衛星量子通信実験など、何度も世界初の宇宙実証を成功裏に進められたと思っています。
皆さんも、お友達や周りの人に感謝して関係を大切にしていけば、良いチャンスを頂けたり、何事もうまくいくのではないかと思います。もし、皆さんの中でも何か新しいことにチャレンジして研究開発をしていきたいという方がおられたら、是非NICTで一緒に「月面都市」を目指して研究開発をしてみませんか?