月面都市
月面都市
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Scene1
思い思いのタンブラーを片手に皆がブリーフィングルームに集まってくる。ここは月を周回する宇宙ステーション (月ゲートウェイ)。交代制で宇宙飛行士が4人ほどしかいない。ボスが月面マップをスクリーンに表示し、今日の地下探査エリアを説明する。クルーメンバーの一人が発言する。<< /p>
「今日の範囲は定常探査範囲より70%も広いですが、我々を酷使し過ぎじゃないですか?」
ボスは息を強めて答える。
「昨日、別の工区で作業が完了した。地球からのアバターマシンが30体以上ある。その内4体が、それらの工区より借用できるぞ。」
作業に必要な工程表とデータのダウンロードを済ませ、ボスと2人のクルーメンバーは各自のポッドに移動し、月面のアバターマシンにコネクトを開始した。私も残ったレモンティーを排出ダクトに流し、自分のポッドに滑り込む。
将来の月ゲートウェイ
月入植と月面基地開発イメージ *Space-X月基地α:
Scene2
地平線に目を向けると、黒い宇宙と灰褐色の地面との境がくっきりと見える。月面のアバターマシンにプラグインすると現れる景色。ボスと現場の工区に向かう。大型の掘削マシンを起動し、探査を開始する。月ゲートウェイからのスキャンデータと照らし合わせ、探査結果をフィードバックし、探査ルートを最適化していく。
残りのクルーメンバーは?今日は仮想訓練の日。月面で考え得る全ての危機に迅速に対応できるように定期的な訓練が義務付けられている。
後方で地球組の作業が始まったらしい、複数の大型インパクトドライバーの振動が月面アバターのグリップアームに伝わり、ゲートウェイの私の素手へと伝わる。この振動は、一度、電波に変換されてから届いているのかと思うと、少しこそばゆい気持ちになる。
Scene3
地平線に目を向けると、黒い宇宙と灰褐色の地面との境がくっきりと見える。月面のアバターマシンに地球からプラグインすると現れる見慣れた景色だ。4体のアバターマシンと共に工区に向かい、現場で3体のアバターマシンと合流する。月組さんたちはすでに仕事を開始している。探査ルートを練っているらしい。
地球に居る自分とこの体(アバターマシン)をつないでいるのは、6Gネットワークだ。現場に着いたら、まず地球との通信状況をチェックする。通信状況の確認が終わったら、超高感度慣性センサを搭載した自律航行ユニットをチェック。万が一ネットワークが切れても自律的に安全動作を行うが、この屈強で高価な官給品が一時停止してしまう。月面上でアバターマシンの位置を通信だけに頼らず、6G基地局の張る高精度測位システムにより常に捕捉できることも重要だ。
複数の掘削マシンを操作しながら、落盤を防ぐ補強パネルをインパクトドライバーで効率的に組み上げていく。月面には強靭なエッジクラウドネットワークが敷設されており、脳情報も活用して、通信遅延の影響が十分に抑制されている。そのため、地球をはるか離れたこの月で、ヒトとモノとが声を張らずに黙々と安全に協調動作できる。
今日の作業時間が終了したので、アバターマシンのメンテナンスボックスに戻り、身を横たえる。最初に見たハイコントラストな地平線を見ながら、ゆっくりとアバターマシンへの接続を解く。地球上のビジョンに切り替わる数瞬前、3Dカメラを冠したローバーが横切るのが見えた。誰かが地球で月面旅行を楽しんでいるのだろう。
地球からの月面アバター遠隔操作
月面アバターによる遠隔作業
Scene4
ゆっくりと月面アバターマシンから地上の自分へ意識が戻る。鎮静音楽の流れる地球上のポッドのなかで、自分の掌を見つめる。華奢で指の長い手だ。さっきまで砂塵に煤けた大きなロボットアームだったのに。
最近、B工区で中継用のシアターが完成したらしい。甥が今度、そのシアターに行くという。
いつか、いまの地下探査が完了しきれいな月面都市が完成したなら、自分も旅行者として娘と一緒に月を訪れたいと思った。