NICT Beyond5G研究開発推進ユニット

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ペーパー

NICTが描く未来像

時空を超えて

時空を超えて 写真

クリエイティブでアクティブな平穏

写真1

父と長女

うちの末娘は活発で公園でも目が離せない。こどもを見つつ、浮遊型の情報端末を呼び寄せて会社の同僚と打ち合わせを行う。野外は少し寒いな。「パパ見て!ヒューン…ぽふっ。」砂場の山に石ころが突っ込んだ。娘のそばに妻の専用カメラドローンがいるのに気が付く。妻も目が離せないらしい。今日まで出張のはずだが、スマートドローンシステムにコネクトして見に来たようだ。信用ないなぁ。

長男

グラスモニター越しの先生の指導が熱を帯びる。来月、月に完成したシアターでダンスを披露する予定だ。今は自宅。AIからの休憩アラートでダンスを中断し、3Dのフィードバック画像を、視点を変えながら確認。そこには、仲間たちのダンスも重ねられている。う~ん、言っては何だが、俺には才能があるな。

次男

兄が二階でダンスレッスンを始めたらしい。ドタドタうるさい。今日は兄の料理当番の日だが、代わることにした。スキルラーニングアシストで新しいメニューが作れるようになるのは楽しいしね(先生の正体は、どうも近所のお婆ちゃんらしい・・・)。そういえば、明日、爺ちゃんの家に行くんだった。ついでに何か作って行ってやろうかな。何が好きなんだっけ?

祖父と父

親父は地元のカリスマ美容師だ。最近はお得意さんから頼まれたときだけ店を開いている。今日は、親父の喜寿*祝いだった(*七十七歳)。常連さんや昔のスタッフも来てまるでタレントショーみたいな盛り上がりだったな。自転車と釣りが趣味で、真っ黒に日焼けした親父。いつまでも元気でな。

家族と

ボードゲームを終えた子どもたちが寝息を立てはじめた。妻も隣で船を漕ぎ始めた。出張お疲れ様。次男は稲荷ずしを作ってきたが、親父の好物なんて、どこで知ったのだろう。人の寝顔を見たら自分も眠くなってきた。自動航行モードに切り替えて背伸びをする。滑空状態のスカイカーの車内は実に静かだ。フロントガラスから月を見上げる。「うちの子が踊るシアターはどこですか?お義兄(にい)さん」。

Dive to the point

写真2

地上20kmを周回する成層圏倉庫のなか。「私」は依頼を受けた荷物をバックパックに収納し、地上へとダイブする。踏み出す瞬間はいつも緊張するが、踏み出すと解放感に満たされる。倉庫を出て、空が濃紺から次第に淡い青に変化し、白い雲を高速に突き抜けると、無数の川が分岐して流れる街が霞みのなかから姿を現す。よく見ると、川は小型の水門と水力発電機とを備えたより細かい用水路に分岐している。水門と発電機とはネットワーク化され、町を流れる水量はスマートに管理されている。山のむこうに黒い雨雲が見えている。今頃、広域なセンサネットワークが降雨量と河川の水位を観察・予想し、町からの適切な排水プログラムを計算していることだろう。

目的地とする山間部に近づく。広大な赤松林のなかで光っているのは作業用ドローンだ。複数のロボットが間伐・回収・搬送を協調して行い、森の治水効果が最大になるように維持・管理してくれている。それでも山の一部は崩れてしまい、広がる赤松林には幾筋もの赤茶色の土をのぞかせている。ドローン群が修復を進めている壊れた鉄橋が目に入る。いくらスマート化を進めても、自然災害による被害はゼロにはできないのだろう。

いよいよ、目的地の公民館に到着する。公民館近くの直径5mほどの受け取りポッドに突っ込む。驚くほど静かなランディング。衝撃による熱や音を回収して、効率的に蓄電する技術のおかげだ 。数分の安全確認の後、私のバックパックからスタッフが救援物資を手際よく取り出す。遠くから歓声が聞こえてくる。

慣性センサと時空間同期ユニットを搭載した耐熱セラミック製の私は、一仕事を終え、つぎの落下に向け、メンテナンスボックスへと回収される。スタッフさん、橋が直ったら洗浄と、香りのよいオイルの注入をお願いしますね。次はロケットから大気圏突入もやりたいな。

Dive to the point PC画像Dive to the point SP画像レジリエント里山

空を行き交うのは

写真3

コーヒーを入れ、自宅のデスクに座る。雀の鳴き声と冷えた空気がすがすがしい。ワイドスクリーンに向かい、昨晩、仕上げた課題のレポートを静かに読み返し、修正を加えていく。キーボードはそこにはない。キーボードホログラムをタップし、モーションキャプチャで、入力情報はエッジクラウドに送信される。騒がしいのは自転車をチューニングアップしてる祖父の作業音だけ。七十七歳なのに元気。そろそろ海外の大学で教鞭をとる時間。レポートを提出し、頭を学生から講師へと切り替える。従弟の作った稲荷ずしを食べながらヘッドセットに手を伸ばす。一昨日、祖父の好物を彼が訊いてきたのはそういうことだったのかと今更に気が付く。何気なく掌に目をやる、華奢で長い指。父に似たのだろう。

チューニングアップの完了した自転車にまたがり、二階にいる孫娘に声をかける。「ちょっと、出かけてくる!」。返事がなかった。講義の時間か、申し訳ないことをした。大きな幹線道路を、私は全速力で進んでいく。真新しい紫のパーカーのフードがたなびく。風が心地よい。道路に自動車はいない。軽量の宅配ドローンは低層域、個人用乗用車は中層域、大型の輸送機は高層域を飛ぶ。さらに成層圏には大型の倉庫が周回しており、遠隔地には、そこから荷物を直接届けることもできるらしい。私の走る道に輸送用の大型スカイカーが影を描く。私はその影に引き離されまいとさらにペダルを踏みこんだ。雨雲レーダーのアラートに気づいて自宅に戻ろうとすると、大きな土砂崩れのあった山に向かって、一筋の光が空に軌跡を描いた。

空を行き交うのはPC画像空を行き交うのはSP画像バーティカル ヒト・モノ・コト流